全国珠算教育連盟様
Title:
ポスター制作
Size:
A4
Pages:
片面
Date:
2025/12/8
馬を引きだして駅へ向つた。封書の目方を計つて投函するためには二里の山坂を越えた駅の郵便局へ赴かなければならなかつた。書き落した用件は、今夜三行のハガキで済まさうと思つた。茶屋は深く戸を閉してゐた。登楼の念切なるを感じてゐたが、馬に乗り、枯草色のシヤツを着け、風を引きかけてゐる身の大事をとつて小屋の引籠からつかみだした虫臭いほんとうの赤毛布をマントにしてゐる姿を思ふと、いつになつたらあの門を潜れるかと歎ぜられた。平次と倉造は、伊達の眼鏡や金鎖を所蔵して他所行の着物も二通りあるから、いつでも一着は借すであらう、身装りさへ整へれば断じて水車小屋の人夫とは想像されぬと自負してゐたが、借り物は堪えられぬのだ。前夜はこのまゝで関はぬと決心したのだつたが、今その前を通過して見ると、館は真新しい舟板の塀を囲めぐらせて、しやれた灯籠や庭木のあんばいが眼になどついた。こゝより他に歓楽の酒を売る一軒の居酒屋もなかつた。自分は享楽児でありながら、いつも彼方の明るみへ向つては眼前に深い沼を感じて、たぢろいでばかりゐるので、口惜し紛れに「抽象的」になど走るるのかと考へたが、左様でもなく、それについてはやはり龍太に書かずには居られなくなつて、第一信を投函するやいなや慌てゝ小屋へ駆け戻つた。
